湛海律師、聖天様の御眷属とはならない！

前回のお話は聖天様のお誘いに疑念を持つというお話だったんだけど、覚えてる？

そう、円忍律師のお諭しを聞いて、聖天様に疑念を抱くこととなったんだけど、

聖天様から言われた、小野曼荼羅寺の古い教典を実際東寺で見ることで、

湛海律師は、聖天様は並びなく優れた神である!と思い直したんだったよね。

そうなんだ。今回はその後のお話。

湛海律師は円忍律師のお諭しを胸に、いろいろと思い悩み、六百日近くも続けてきた浴油供も結局やめてしまったんだ。

円忍律師が歓喜院を訪ねて来られたのが1672年、寛文12年の3月頃、

で聖天様に諭され、5月末位に東寺で聖天様に言われていた巻物を見て疑念が晴れた（？）そんなお話の流れだったんだけど、

8月頃、昔で言うところの秋、今では夏真っ盛りの夕暮れ時に夢を見たんだって。

お不動様の護摩を修していた湛海律師は、礼盤（らいばん）に座ったまま深い眠りに入り、 仰向けになって下に落ちてしまったんだって。

その時、不動明王の迦樓羅炎（光背にあたる火炎）が、前に逆巻くように激しく燃え上がり、湛海律師の首に巻きついて、礼盤の上に引き上げて下さったというんだ。

そして、大声で、お不動様が

護摩を焚く作法に入るときには、 『大日如来の御威光は、一切宇宙を遍く照らし、 無辺の大徳は至らないところはない』 との無所不至の境地に入れ

とお教え下さった。というんだ。

それを聞いて湛海律師は夢の中で閉塔の印を結んで、心を静めて火に向かって瞑想したんだって。

すると、以前、江戸の永代寺道場で八千枚の護摩供を修したときに、手助けをしてくれた僧が、壇の脇に現れて、こう言うんだって。

おまえは役にも立たない世の中の俗事に執着して、無知の境でもがき苦しみ、もう少しで、名聞や利益を追い求める、つまらない人間になり下がろうとしている。

そうだったね。湛海律師のことだから、悟りを得るためかと思いましたが、世俗の名利に心が奪われ、それをむさぼり求めての大きな願いってどんな願いなのでしょう。

その僧は続けて、不動明王は広大無辺のご慈悲をもって、おまえに真理の教えを説き示し、煩悩から抜け出させようとされているのだ。と話された。

そして、その僧は続けて、

それは、 『ひとたび神呪を持する者は、一生加護をする』との御誓願を、明王は持っておられるので、おまえをお捨てにならないからだ。覚えているかどうか知らないが、 おまえは永代寺の道場で、 八千枚の護摩供を修しているが、 そのときの功徳によって、不動明王がお助け下さったのだ。

早く名利を求める悪夢から目覚め、世の人々を救うがために悟り求めるのだという菩提心を持て、云々

と話されたんだって…

湛海律師は夢から醒め、さても不思議な夢を見たものだと思ったんだ。

そして、そのまま、またまた眠りに入って夢を見たんだって。

湛海律師が広野を進んで行くと、古ぼけた井戸のような穴に足を踏み外し、あぶなく穴に落ち込むところだった。

既のところで、 むこう側に飛び越え、 振り返って穴の中を覗き見ると、はなはだ恐ろしい地獄がその穴から見えたんだ。

ふと、井戸のあたりに目をやると湛海律師のお兄さんがいて、あぶなく穴に落ち込むところだった湛海律師を見て、

「あーあ、危ないところであったなあ。もう少しで名利の穴に落ちるところであった。早く菩提の心に立ち帰るように心を決めよ」と諭されたというんだ。

ここで、夢から醒めた湛海律師は、さてさて仏に帰依をして、教えのままに帰順するのは、まことにありがたいことだと思われたんだ。

そして、夢で見たことは、本当に不動明王が私をお救い下さるための方便であることは、疑う余地のないところである。と思ったんだって。

このような夢を見て自分の思い違いに驚かないのは、思慮分別が足りないからだと思い直し、

今までは愚かにも、これから先、何年も長い間生き続けられると思い込み、あのような願いを発願したのだと反省して、この願は取りやめると心に決めたんだって。

それから湛海律師は、改めて不動明王に、今から以後、俗世間の名利を捨て、菩提心を発して、仏の真実の教えを修行いたしますと発願した、ということらしい。

そうなんだよね。だから、その後、湛海律師が不動明王の修法に入ろうとすると、聖天様からの怨みを受けて、荒れ狂って修行を妨げるそうなんだ。

そうだよね、聖天様はなかなか納得しないだろうけど、それでもまずは納得していただけるように、なんとか方法を模索すべきだったのかもね。

聖天様の怒りの様子は、悪心無道の人間の荒れる様よりもすさまじく、怒りのあまり毘那夜迦王に立ち帰り、皮や肉や骨髄など、体の中までも入り込んで諸処を痛め、また、礼盤から引き落とすがように、いろいろと無数の障害を受けた。と記してあったんだ。怖かっただろうね。

しかし、湛海律師は、身命を捨てても、一生の一大事はここぞと思ったんだ。

それで、精進努力の心をいよいよ高めて修行に励み、聖天様に取り込まれるより前に、まず第一に不動明王の御眷属にしていただくと心に決めたと言うんだ。

とそのように発願したんだ。

そして、昼夜を分かたず猛烈に御真言を唱え、その数が十万遍にも達し、八千枚護摩供二座の前行に当てることとしたというから凄いよね…。

八千枚護摩供二座の本行に入る前に、 湛海律師が

と、弟子たちに申し置き、二座の前行であるので、断食も二日間にわたり、 一昼夜のうちに八千枚二座を成就したんだって。

湛海律師は一心不乱に行をしたので、そのお陰か、

と言うんだ。

そして、あまりにも優れたことがつぎつぎと起こり、感激のあまり昼夜を問わず道場に入り、感涙に咽び哭いたというから、よほど素晴らしい体験をされたんだろうね。

このようなことがあって、湛海律師は、

とこのような事が記されておりました。

次回もお楽しみに！